写真:吉岡 徳仁

吉岡 徳仁 デザイナー、アーティスト

profile
1967年佐賀県生まれ。倉俣史朗、三宅一生のもとでデザインを学び、2000年吉岡徳仁デザイン事務所を設立。デザインからアート、建築まで、幅広い領域において、自然と感覚を取り入れた実験的で革新的なクリエーションは、デザインの領域を超え、アートとしても国内外で高く評価され、Design Miami Designer of the Year 2007など、国際的なデザイン賞を多数受賞。作品の数々はニューヨーク近代美術館(MoMA)など、世界の主要美術館で永久収蔵品に選ばれている。2011年、東京都美術館のシンボルマーク、ロゴをデザインした。資生堂ギャラリー(東京・銀座)にて、「吉岡徳仁 スペクトル −プリズムから放たれる虹の光線」(2017年1月13日~3月26日)開催。

シンプルな立方体のロゴに託したもの

 ものをつくる側から見ると、美術館はすごく特別な存在です。単なるスペースだけではなくて、美術館であるということが重要です。ものづくりでは、一瞬の美しさだけではなく、時間や時代を越えられるものをつくっていきたいという考えがあります。そして、できあがったものをたくさんの人に見ていただきたいのと、時代を越えて歴史の一部として、展覧会という形で後世に残っていくのはすごく意味があることです。

 海外の美術館でもパーマネントコレクションに作品が収蔵されたり、展示されていたりすると、世界的な視点からも自身の作品の発想がどういうものか、客観的にみることができます。それが美術館という特別な空間なのです。

 

 私が東京都美術館のロゴをデザインしたのは、2011年のことです。大規模改修工事の中、翌春のリニューアルオープンに向けて初めて都美術館がロゴをつくるというプロジェクトでした。デザインコンペに参加させていただき、本当に楽しい時間を過ごすことができ、光栄に思っています。
 世界中のたくさんの美術館を見てきた中で、一番大事にしているのは「わかりやすいこと」です。ロゴがひとつの機能として、一瞬で東京都美術館をイメージできるように、キューブ状でありながら立体感のある造形にしました。

 

 これ以上シンプルにできないデザインにしています。シンプルではありますが、実は、あの中には黄金比や隠れた要素も入っています。線の立方体の方は、その中に未来に何が入るかわからない、次の創造するものの空間性も入っています。色もいろいろな調色をして、赤い色になっています。この色は建物の外壁の色でもあり、日本の国旗の赤のイメージを取り入れて、力強さとともに世界に発信できるイメージでつくりました。

 

 私は文化に携わる中で、幸せだなと感じるときがあります。それは、美術を見に行ったり、音楽を聴きに行ったり、文化に触れるときです。美術館というのは、いろいろな人の価値観があったり、いろいろな考え方があったり、いろいろな教育ができたり、社会の中でマインドをリセットしたりとか、考えさせられたりするような場所。でもそこに訪れることで元気になったり、自分の美意識を向上させたり、ちょっぴり背伸びさせたり、そういう場所ですごくいいなと思います。

 

 以前に比べて、美術は専門の視点から見なければいけないというようなルールはなくて、自由にその人その人が感じたものを言葉にしていい時代になったと思う。そういうことを考えると、ものづくりをする中で、いろいろな視点があって、いろいろな意見があって、それを逆に楽しんでいく場所であって欲しいと思います。その素晴らしい文化を、子どもたちをはじめ、たくさんの方に感じていただきたいと願っています。

 その拠点としてこれからも自由な視点でさまざまなことを発信してもらえたらいいなと思います。風格と90周年という歴史があり、これまでにも歴史に残るような展覧会を多く開催している東京都美術館での展覧会もしてみたいですね。

(聞き手:進藤美恵子/東京都美術館 広報担当)

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