日本で最もフェルメールに出逢える美術館
四角い何の変哲もなさそうな外見からは想像がつかないほどの「驚異物の館」であるのが都美館(トビカン)こと東京都美術館です。その理由はいたって簡単で、トビカンほど年間を通し、多種多様な芸術作品を観られる美術館は他にないからです。
これまで開催された特別展をさらっと振り返っただけでもそれは一目瞭然です。今年(2016年)に入ってからも、江戸絵画のエース「生誕300年記念 若冲展」、パリから激動の20世紀美術が集結した「ポンピドゥー・センター傑作展」。また過去には「海のエジプト展」等々、ここで開催された展覧会の想い出を語り合ったら何日あっても時間が足りないほどです。
海外の名作が並ぶ特別展だけではありません。トビカンは書道に彫刻といった公募展の会場としても大きな役割を担っています。全ての展示室を合わせるとどれだけ多彩な作品がこの一館に展示されているのか容易に想像がつくはずです。まさに美術のヴンダーカンマーです。
2012(平成24)年に大幅なリニューアル工事を実施した際に、ル・コルビュジエに師事した建築家・前川國男による建物の躯体を残しつつ、内部は大幅な変化を遂げました。外見に変化がないのでもしかしてリニューアルされたことに気がつかない方もいらっしゃるかもしれません。
でも、思い出してみてください。リニューアル前の企画展示棟は3フロアを階段で移動していたことを。しかも曲がった階段の幅が信じられないほど狭く、上下の展示室を移動する人々が肩をこするようにしてすれ違っていたことを。2004年に開催された「フェルメール『画家のアトリエ』栄光のオランダ・フランドル絵画展」では最上階に展示されていた「画家のアトリエ」を観るための通過儀礼的な側面をあの階段が担っていたように思えます。
リニューアル後は、地下1階(ロビー階)から地上2階までの動線もエスカレーターで結ばれ断然流れも良くなりました。改装後最初の展覧会として2012年に開催された「マウリッツハイス美術館展」では、フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》にたどり着くまでがあまりに未来的でトビカンではないような錯覚さえ起こしたほどです。
また意外に気がつかない点ではありますが、リニューアルオープン後は展示室の床に絨毯が敷かれたことにより、他の鑑賞者の靴音も気にならなくなりました。今思い返してみると、あの一見不便な導線や甲高く鳴り響く靴音も「驚異物の館」らしさを演出する小道具のひとつだったように思えてきます。
最後にもう一点だけ。東京都美術館は日本国内でフェルメール作品が最も展示された美術館でもあります。その数1999年から数えて何と10作品!世界中に現存する貴重なフェルメール作品の約三分の一がここで観られたことになります。世界広しと言えども定期的にこれだけのフェルメール作品と出逢える美術館は他にはありません。
美術鑑賞を始めた頃、トビカンで開催される展覧会には必ず足を運び、様々な作品に触れるよう心掛けました。地下の画材屋で次の展覧会チケットを購入していたことも含めとてもとても語りつくせぬ想い出が沢山あります。そしてこれからもまだまだ刺激的な「驚異物の館」との付き合いはしばらく続くことになりそうです。